2013年3月4日月曜日

牛蒡の唐揚げ


先日、仕事の後で奥さんと飲みに行きました。家の近所です。

飲みに行く、と言っても僕は弱いので、たいていの場合一杯、調子がいいときでも二杯しか飲めません。奥さんはめちゃくちゃ強いですが。

しかも弱いクセに芋焼酎が好きなんですね。それもロックでしか飲まないという……

そのお店は、行ったことはなかったのですが、焼酎が豊富に置いてあるようでしたので、前から気になっていたのです。

焼酎と鳥取の大山鶏(だいせんどり)をメインに出しているお店です。

芋焼酎は好きですが、それほど銘柄に詳しいわけではありません。メニューにはたくさんの名前が並んでいて、どれがどれやら……

お気に入りは橘ですが、こういう場所へ来たら、やはり普段飲んだことのない銘柄に挑戦してみたくなりますよね。

何杯か飲めるなら「とりあえず」で頼めるのですが、僕の場合は一杯しか飲めないので、安易には選べません。名前がカッコよかったので「黒伊佐錦」にしてみました(安易に選んでる)。甘味とコクがあって、なかなか美味しかったです。

奥さんは宮崎出身のクセに焼酎はからっきし飲めません。もっぱらビールですね。ここは珍しく、恵比寿の生ビールが置いてありました。

さて、初めてのお店ですから、何が美味しいのかさっぱりわかりません。どの料理を頼むかで迷っていると、カウンターで一人で飲んでいる、30代前半くらいのサラリーマン風の男性が、不意に声をかけて来ました。

「牛蒡の唐揚げがおススメですよ!」

と人懐こい笑顔で話しかけてきます。話を聞くと彼は、今日、長野から仕事で来たのだそうです(お店は埼玉県です)。多分、以前このお店の常連だったのでしょう、お店の人とも仲良く喋っています。

「実は牛蒡の唐揚げはメニューにないんですよ。前は置いてあったんですけどね。でも、僕は大好きで、それがどうしても食べたかった。だから昨日電話して、わざわざ作ってもらったんです」

確かにメニューには書いてありません。

「一人前だけ作ってくれるのかなって思って来たら、壁に貼り出されているじゃないですか。ということは何人前かは作れるということですよね。僕も無理を言って用意してもらった手前、なるべく多くの人に食べて欲しいんです。コレ、今日しか食べられないですよ。絶対に美味しいからゼヒ頼んでみてください!」

メニュー表には無いものの、確かに壁には「牛蒡の唐揚げ」と手書きの即席メニューが貼り出されています。

そこまで言われては頼むしかありません。僕たちは早速注文しました。しばし待って、出てきた牛蒡の唐揚げ。長さは5センチくらい、太さは牛蒡を四つに割ったくらいでしょうか。

一つ箸で摘まんでみます。見た目は特に変わったところはありません。しかし一口食べると……美味い!

想像していた「牛蒡揚げ」とは違って、中がとても柔らかく、なおかつ味が染み込んでいる。外側は薄衣でさっくり。牛蒡を揚げてこの食感。これまでに食べたことのない味でした。

「どうですか? 美味しいでしょう? それ、揚げる前に一度煮てあるんです。凄く美味しいんですけどね、手間がかかるからってメニューから外しちゃったんです」

と、店長をチラ見しながら残念そうに言いました。でも彼は、自分の一押しの一品の美味しさが、見知らぬ僕たちと分かち合えたことがとても嬉しそうでした。


ありふれた素材でも、工夫次第でいくらでも美味しくなるんだなあ、と改めて思い知らされました。そして彼がいたからこそ美味しい料理を食べられたという偶然に感謝した夜でした。

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